「総務やさん」第1111号

●この世界の片隅に

・・・・山中 嵩三(やまなかたかみつ)

 最近、勧められて「この世界の片隅に」という作品(劇場アニメーション映画版)を観ました。この作品は戦時中の日本(広島の呉市がメインの舞台)のお話です。
 主人公の“浦野すず”の生き様が描かれています。すずさんは広島市の出身で絵を描くことが好きな女性です。18歳の時に、北條周作さんに見初められ呉に嫁いでいくことになりました。戦時中という過酷な状況でも、嫁ぎ先の呉で不器用ながらもいつも前向きにがんばります。
 ところが、ある日の空襲で、すずさんと一緒に逃げていた姪っ子の晴美ちゃんが空襲の犠牲になってしまいます。すずさんは「どうして自分じゃなくて晴美ちゃんが犠牲になってしまったのだろう」とひどく落ち込みます。それだけではありません。その時に、すずさんも利き腕である右腕を失う大怪我を負います。それは、すずさんにとって「絵を描く」という自分自身の大切な一部を失うことでもありました。
 それでもなお、前を向いて日々を生きていこうとする。そんな“すずさんの強さ”が描かれている作品でした。

 この作品を観終わってから「作中のような過酷な状況下で、果たして自分はすずさんのように前を向き続けて生きていけるだろうか……と考えてしまいました。きっと自分だったらすぐに嘆いて喚いて落ち込んで、「もう無理、絶対無理、最悪、嫌だ、全部嫌だ」と絶望してしまうなと思いました。

 では、今の時代はとっても幸せでしょうか。戦争もない、ご飯もたくさん食べられる時代です。それでも今の時代にもたくさんの苦難、困難があるような気がします。今の時代の苦しさは、戦時中のように「空襲が来る」「食べ物がない」といった“目に見える危機”ではありません。他人はもちろんのこと、自分でも気づけないほど静かに、じわじわと心を追い詰めてくるような……まあ、あまり暗い話をしても仕方ありませんが。

 今の時代は、すずさんの生きた時代よりも遥かに平和で豊かになり、空襲もなく食料があるという大変に恵まれている状況であることは事実です。しかし今の時代の方が圧倒的に“幸せ”かどうかは分かりません。今の時代に求められる強さの形も、向き合わなくてはいけない困難の種類も、より複雑で多様化していて、私はたまになにがなんだか分からなくなることがあります。理由はいまいちわからないけれど、なんだか何もかも上手くいかない時に「見えにくく、気づきにくい苦しさ」「理由の分からないしんどさ」「何にぶつかっているのか分からず動けない状態」など非常にやっかいな敵に囲まれてしまっているのかも! なんて考えてしまったりすることも。

 今の時代は、“苦しさの輪郭が見えにくい”ということを、まず理解する必要があるのかもしれません。
 そして、すずさんが“常に前を向く強さ”を持っていたように、“自分でも気づきにくい苦しさ”を無視せず、ちゃんと向き合う強さを持つことが、今の時代の「この世界の片隅」での歩み方なのかもしれません。

 さらに、その見つけた“苦しさ”をけっしてかっこいい言葉じゃなくてもいいので自分の言葉にしてみる。誰にも理解してもらえなかったとしても誰かに伝えてみる。そんな小さな一歩一歩の積み重ねが現代の「今を生きる」ということなのかもしれません。