「総務やさん」第1033号

●本気で信じて期待すること。できますか?

                 ・・・・吉子 泰仁(よしこやすひと)

  2024年4月で創業100年という節目を迎えた木村石鹸工業株式会社。大正13年創業、大阪府八尾市にある石鹸メーカーです。こちらの商品を使われている方もいるのではないでしょうか。
 同社は先月伊賀で「百年祭」というイベントを開催し、同日『くらし 気持ち ピカピカ ちいさな会社のおおらかな経営』という書籍も発売しました。

 この書籍のなかで、2019年12月に導入した「社員自身が希望の給与を申告する」というユニークな人事制度が記述されています。

 そのコラムでは、「社員と会社」を「事業家と投資家」に例えて、「社員(事業家)は会社(投資家)に貢献内容(事業プラン)を提案し、そのプランにふさわしい報酬額(投資額)を提案する。そして、会社は貢献内容と報酬額が見合っているかを検討して、見合っていれば決定、見合ってなければ貢献内容か報酬額の変更を話し合い、両者で合意点を探るというもの」と「自己申告型給与制度」が説明されています。

 この話し合いをする場は、各グループのマネジャーが集まって開く「投資額決定委員会」で、社員60名弱の一人ひとりについて議論しても、まるまる2日かければ十分にできるそうです。

 実際やってみた結果については、約60%が提案通り、約30%が貢献内容に対して報酬がやや高い、約10%が貢献内容に対して報酬が低いというような比率になったとのことです。そして、この制度に変えてから「積極性が出てきた、自分で考え行動できる社員も増えてきている実感がある」と述べられています。

 実は、弊社の近く、愛知県海部郡大治町にも「みんなで経営 自己申告型報酬制度」という(給与と報酬の名称の違いはあれど)よく似た人事制度を2023年から導入した企業があるのです。
 なんとこちらも、明治39年(1906年)創業で118年続く側島製罐株式会社です。
 同社もホームページやビジネスSNS「Wantedly」をはじめとしてさまざまな媒体で取り上げられていますので、詳細はそちらをご参照いただくとして、木村石鹸と側島製罐の記事を拝見するに、どちらも社員へのリスペクトが言語化されているのに気づきました。

 (木村石鹸)
 最初、四代目社長である木村氏は、父親の「うちの社員は、ほんまにすごいんやぞ」という自慢を小馬鹿にしていたそうです。
 しかし、「すごいやつなんているわけないやん、と鼻で笑っていた自分が恥ずかしいぐらいに、社員は優秀だったんです。それは僕が家業に戻って得た実感です」と語っています。

 (側島製罐)
 2021年にMissionVisionValuesを策定したときにわかったこととして「メンバーの視座の高さと当事者意識の強さ」を六代目代表取締役石川氏は以下のように語っています。
 「当時はマネジメントという概念もなければ運用の仕組みもない上にみんながお互いいがみ合ってるという組織が空中分解している状態ではありましたが、それでも各自にどんなことを考えながら仕事してるかを深く聞いてみると、みんな仕事とか会社のことについてすごい熱く語ってくれるんですよね。
 (中略)誰かに言われるわけでもなく、評価されるわけでもないけれど、自分がやるべきだと思ったからやる、というみんなの信念は表面化こそしていなかったものの会社のカルチャーとして確かに存在していました」

 同じ人事制度を両社が導入し、新しい時代の組織のあり方を実現しようと挑戦できるのは、木村氏の書籍の表表紙の裏に記載されている「本気で信じて、期待する」という気持ちがあるからではないかと思います。
 「人は、誰かに本気で信頼され、期待されれば、それに応えよう、裏切らないようにしたいと思う。信じて期待する。それだけのことが、社員の能力を引き出し、チームとしての強さを生み出す。僕はそう信じている」と木村氏は、父親と同じように社員を信じる気持ちを持ち続けたいと述べています。
 この言葉を読んだとき、「本気で『信じる』『信頼』の中身は何?」というリクルートのCES研修の問いを思い出しました。

 「自分をもっと生かしたい」と思う人間の本質を信じること。
 皆さんだったら信じられますか?

■参考文献
1.「くらし 気持ち ピカピカ ちいさな会社のおおらかな経営」2024/9/27
木村祥一郎 主婦の友社

2.側島製罐ホームページ
https://sobajima.jp/heart-driven/

3.”自己申告型報酬制度”という新しい未来への挑戦
https://www.wantedly.com/companies/cancompany/post_articles/543500