「総務やさん」第1065号

●情実人事をなくすために

                (株)総務システムサービス
                  代表取締役 伊藤 碩茂(ヒロシゲ)

 年功序列がほぼ崩壊している中、上司や役員へのムダな忖度がなくなりません。今の日本で情実人事をなくすにはどのような方法があるのでしょうか。

 年功序列が崩壊しているのに、忖度や情実人事が残る」というのは、日本企業や組織における構造的な矛盾の一つです。優秀な人材の流出を防いで業績を上げるには、情実人事を減らし、より公正で実力主義的な人事制度を実現することが不可欠です。そのための現実的なアプローチを提案します。

(1)人事評価制度の透明化
 評価基準を数値化し、それを公開することで「なぜその人が昇進したのか」が誰の目から見てもわかるようにする。例えば、KPIやOKRのような成果指標と行動評価を組み合わせるなど。

(2)昇進・配置の決定プロセスに多様な視点を導入
 直属上司の評価だけでなく、多面評価(ピアレビューや部下からのフィードバック)を導入する。これにより、上司の一存での情実判断が難しくなる。

(3)社外人事委員会や外部の第三者チェック機能を導入
 昇進人事において、社外役員や外部コンサルタントの意見を入れる制度をつくる。コーポレート・ガバナンスの観点からも、企業価値の向上につながる。

(4)内部告発制度の整備
 「この昇進はおかしい」と思った人が安心して問題提起できる仕組み(匿名通報窓口)を作る。ただし、告発者の保護が不十分だと機能しないため、法的整備も重要。

(5)ジョブ型雇用と社内公募制度の推進
 誰でも公平に応募できる「役職ポスト」を公募にする。ジョブディスクリプションに基づいたスキル評価により、情実ではなく適材適所が可能に。

(6)AIやデータに基づく人事分析の導入
 感情的な人事ではなく、業績・能力・スキルなどのデータを可視化し判断材料とする。例えば、昇進候補者のプロジェクト成功率、リーダーシップ評価、組織貢献度など。

 忖度文化が残っている背景には、日本の昔からの風土が関係しています。
 まず、人事権が極端に集中していることが大きな要因です。特定の上司や役員が全てを決定する大きな権限を持つ状況が続いてきました。さらに、業績以外の「付き合い」や「忠誠心」を評価する文化が残っており、上司に気に入られ「波風を立てない」ことが重要視されてきました。
 年功序列、つまり一生その会社で働く場合、昇進=「会社内での一生の序列」となり、上下関係の利害が非常に大きかったことの弊害といえるでしょう。

 ここまで制度案等を述べてきましたが、制度の形だけを整えても「上の顔色を見るのが当然」という風土が残っている限り、情実人事はなくなりません。
 したがって、制度改革と同時に“率直な”フィードバックをしても問題ないと誰もが思えるような心理的安全性のある職場文化を育てる必要があります。


●初心にかえるということ

                 ・・・・野田 貴仁(のだたかひと) 

 歌手として、そして母として活躍する木村カエラさんが、かつて引退を考えたほどに悩んでいたことをご存知でしょうか。

 2025年7月6日放送のテレビ番組「おしゃれクリップ」で語られた彼女のエピソードは「初心にかえることの大切さ」を思い出させるものでした。

 木村さんは、結婚・出産を経て子育てと音楽活動の両立に大きな葛藤を抱えていました。「歌詞が書けない」と悩み、ついには「こんな状態ならやめた方がいいんじゃないか」と引退すら考えたといいます。

 そんな彼女を救ったのは、夫・永山瑛太さんの言葉でした。彼は、まるでインタビュアーのように「なぜ歌ってきたの?」「デビュー20周年、どう思ってるの?」と問いかけ、木村さんの中にあった思いを引き出してくれたのです。
 永山さんの言葉により、木村さんは「歌が好きだった気持ち」「誰かの幸せのために歌ってきた」という“原点”を思い出したそうです。それが、再び歌を紡ぐ力となったといいます。

 「初心にかえる」とは、単なる懐古ではありません。それは、自分自身を見失いそうになったときの「灯台」のようなものです。忙しさや迷い、焦りに押し流されそうになったときこそ、初めに感じた想いや動機を思い出すことが、再出発の力になります。

 「歌が好きだから、皆が幸せになるから歌ってきたんでしょ。いいじゃんこれで。考えちゃダメだよ」という永山さんの言葉に、木村さんは「頭でっかちになってはいけない」と改めて思ったそうです。

 日々の生活や仕事の中で、私たちも知らず知らずのうちに「目的」や「想い」を見失ってしまうことがあるかもしれません。そんなとき、少し立ち止まり、自分が最初に抱いた気持ちを見つめ直すことは、自分を取り戻す第一歩になりそうです。

 初心にかえること。それは心の軸を再確認するための、前向きな「一歩下がる勇気」なのかもしれません。