「総務やさん」第1043号

●給与(賃金)の話 第112回

・・・・細口 桂三(ほそぐちけいぞう)

今回は、賃金の国際比較について紹介したいと思います。

○日本の賃金水準の国際的位置(為替レート比較)
 OECD(経済協力開発機構)が公表している加盟諸国の年間平均賃金額の2020年データによると日本の賃金はアメリカの約半分で、お隣の韓国より低い状態です。具体的には、日本は38,515ドル、アメリカは69,391ドルとなっています。従って、日本の賃金はアメリカの55.5%でしかないことになります。
 EU諸国を見ると、ドイツが53,745ドル、フランスが45,581ドル、イギリスが47,147ドル、また韓国の賃金は41,960ドルとなっています。
 2020年において日本より賃金が低い国は、旧社会主義国と、ギリシャ、イタリア、スペイン、メキシコ、チリぐらいしかなく、日本は、賃金水準で、今やOECDの中で最下位グループに入っていることがわかります。

○購買力比較
 一方で、見たことのある方も多いと思われますが、購買力比較に「ビッグマック指数」というものがあります。これは、イギリスのエコノミスト誌が公表しているデータで、各国のビッグマックの価格を比較したものです。
 その2021年のデータを見ると日本のビッグマックは390円でした。これを為替レートで換算すると3.55ドルになります。他方で、アメリカのビッグマックは5.65ドルですので、日本のビッグマックはその62.8%ということになります。

 前述したOECDの数字では、日本の賃金はアメリカの賃金の55.5%であるので、ビッグマックの価格の違いも、賃金格差のデータとほぼ同じということになります。またユーロ圏のビッグマックはドルに換算して5.02ドル、イギリスのビッグマックが4.5ドルなので、これも賃金格差とほぼ同じ傾向となっています。さらに、韓国のビッグマックは4.0ドルであり、結論としてビッグマックの価格は日本が最低ということになります。

●賃金における日本と外国の比率と、ビッグマック価格における比率は、ほぼ同じようなものになっているということです。

〇国際比較と実質賃金
 OECDの数字は、2020年を基準とした実質賃金を、2020年を基準とした購買力平価でドル表示したもので、物価の変動を除去した実質賃金であり、また為替レート変動の影響を除去したものになっています。
 アベノミクス前の2010年は、ビッグマック価格(ドル換算値)で見ると日本は3.91ドルで、アメリカの3.71ドルやイギリスの3.63ドルより高い値になっていました。日本より高かったのは、スイス、ブラジル、ユーロ圏、カナダだけでした。韓国は3.03ドルで、日本より低かったという状況です。ただし、2010年当時は円高だったという理由が大きいと思います。
 しかし、2020年は基準購買力平価では、2020年と同じ購買力にするように為替レートを調整するので、円安のレートで比較していることになります。
 これは何故かいうと為替レート変動の影響を取り除いて、その国の実質賃金が時間的にどのように変化したかを見るためとのことです。こうすることで、各国の実質賃金がどのように推移したかを分析することが可能です。
 2000年から2020年の20年間での年間平均賃金額は、韓国が1.45倍、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスは、1.2倍程度に対して、日本は1.02倍です。この20年間に、日本は実質賃金がほとんど上昇しなかったのが、各国間格差が広がった理由だと考えられます。

 本来は、円高を支えるために、企業が技術革新を行い、生産性を引き上げて賃上げしなければならないのですが、それができておらず、実質賃金が低下している状況にあると言えます。

 今回は「賃金の国際比較」をご紹介しました。