「総務やさん」第1078号
●技術伝承支援、その取り組みにある価値とは?
・・・・吉子 泰仁(よしこやすひと)
11月2日(日)、岡山の西大寺観音院で「テラウィンお化け屋敷呪い人形堂」が開催されます。「捨てられた人形の呪い」をテーマにしたお化け屋敷で、今月20日にも仮装コンテストや怪談師の公演を含むイベントがありました。つまり「寺でハロウィン=テラウィン」というわけです。
この寺院は今年3月に宮大工養成塾を設立し、5月には倉庫を改築して校舎を完成。中学1年生から18歳までを対象に塾生を募集しています。住職曰く「寺が自ら育てるのは歴史上初」とのこと。授業料を活用し、プロの宮大工とともに神社仏閣の再生を行う一般社団法人宮大工養成塾の5校目として開講しました。
塾生は西大寺木工倉庫に通い、宮大工の生活習慣・礼儀礼節・大工道具の使い方を学び、西大寺や周辺の社寺で修復・新築の実務経験を積みます。行事設営の手伝いも通じて仏教文化に触れ、建築の根本を学ぶ機会にもなっています。寺院経営が厳しくなっている現代に、1200年の歴史を持つ寺が革新的な取り組みを始めました。
突然ですが寺院数が最も多い都道府県はどこかご存じでしょうか?
京都府、奈良県ではありません。なんと、愛知県なのです。『宗教年鑑』(令和6年版)によれば京都府3049に対して、4517もあるそうです。
その愛知県には、970年創業の建設会社『中村社寺』(一宮市)があります。県内では最も古く、全国で7番目に古いという長い歴史を持っています。かつて東本願寺の勅使門も手掛けた凄いところなんだと驚きますが、注目すべきは、廃寺の部材を再利用する「リ・ユース」事業や、技術伝承支援です。
修繕や改築を望んでいる顧客に、廃寺になった文化的価値の高い部材を再利用することで、資金的な負担も減らし、文化的建築物も残すことができるというものです。さらに、瓦や欄間など社寺に必要不可欠なアイテムの技術を廃れさせまいとして、制作者の実収入に結びつくような支援のための環境整備をされているのです。
中村社寺もかつてゼネコン事業に進出し、社名を中村建設に変更。最盛期には売上150億円を記録しましたが、バブル崩壊後の2007年に破綻。「原点回帰」を掲げて金剛組の子会社となり、現在は高松コンストラクショングループの一翼を担っています。
再生を導いた加藤会長の「社会のニーズがあるから。若手に技術を継承して、可能な限り続けていかなければならない」という”寺社の番人”であり続けた矜持の凄さを感じます。
長寿企業は、誠心誠意お客を大切にして顧客からの信頼を築き、伝統を守りながらも時代に応じた革新を拒まず、従業員の育成に注力し企業文化を継承している、とその特長がまとめられるようです。
さらに「経営の優先順位を目先の利益や経済合理性でない」利益を地域社会に還元し、「自分たちの会社だけが一人勝ちしようとせず」社会インフラの整備を支援するなどして地域の信頼を得つつ、「身の丈に合った経営」を行うことがその要諦と言われます。
西大寺観音院や中村社寺の取り組みは、未来に価値を生む行動を優先し、社会との共存共栄を軸にした経営アプローチです。企業収益と社会課題解決の両立を目指し、異業種や学術機関と連携して革新を生み出し、地域や産業全体の利益に還元する。やはり、経営者のマインドセットが鍵なのだと感じます。
【参考】
1.西大寺観音院
「テラウィン」~ Otera de Halloween ~お化けになって西大寺へ集まれ!
https://www.saidaiji.jp/
2.ダイナースクラブ
「社寺建築の伝統をいかに保存し伝えていくか。代々受け継がれた、匠の「技」と「心」」
https://www.diners.co.jp/ja/magazine/article/interview/nakamurasyaji.html
3.中日新聞2023年6月24日
「新卒積極採用し技術継承へ 平安時代創業、一宮の寺社建築『中村社寺』」
https://www.chunichi.co.jp/article/715749
