「総務やさん」第1106号

●獲得競争と戦力化競争

・・・・野田 貴仁(のだたかひと)

 6月1日に新卒採用選考が解禁されました。ところが、すでに学生の内定率は7割に達していると報じられています。かつて就職活動の本番とされた時期を待たずに多くの学生が進路を決めている現状は、採用市場が「獲得競争」に傾いていることを象徴しているのではないでしょうか。

 この背景にあるのは深刻な人手不足です。企業にとって優秀な人材の確保は経営課題そのものといえるでしょう。例えば、スタートで出遅れて「採用人数が足りませんでした」という状況になってしまったら、企業の存続に関わる可能性も出てきます。その結果、企業間ではいわゆる“青田買い”が加速し、学生は十分な企業研究を行う前に意思決定を迫られ、企業側も限られた接点で採否を判断せざるを得ない状況が生まれてしまいます。こうした環境は、入社後のミスマッチや早期離職のリスクを高めかねません。

 ここで思い起こされるのが、サッカーW杯の代表選考です。代表監督は、単に現時点での実力だけで選手を選ぶわけではありません。大会期間中の成長可能性、戦術との適合性、特定の局面で発揮される強みなど、多面的な視点でメンバーを選びます。「今が最強の選手」が必要なのではなく、「大会で勝てるチーム」をつくることを目指しているからです。

 採用も同じではないでしょうか。多くの企業が応募数や内定承諾率といった“採用プロセスの指標”に目を向けがちですが、本当に見るべきは「採用した人材がどれだけ活躍し、組織に貢献するか」という“採用後の成果”です。

 近年、定着率、エンゲージメント、早期戦力化、管理職登用率など、入社後の活躍を測る指標に注目する企業が増えています。採用の成功とは、人数を確保することではなく、採用した人材が成長し、組織の力になることで初めて実現します。

 そのためには、オンボーディングの強化、育成投資、配属後のフォローなど、入社後の支援体制を戦略的に整えることが欠かせません。
 内定率7割という数字に注目が集まる今だからこそ、企業は「何人採れたか」という獲得競争から、「どれだけ活躍してもらえるか」という戦力化競争へと視点を移す必要があります。採用の本質は人集めではなくチームづくり。ここに舵を切れるかどうかが、これからの人材戦略を左右する分岐点になるはずです。

 来週開幕するサッカーW杯では、各国代表の選手起用や采配が注目を集めているようです。しかし最終的に評価されるのは選考そのものではなく、その結果としてチームがどのような成果を残したかです。
 そんな視点で大会を眺めてみると、W杯をまた違った角度から楽しめるかもしれません。日本代表の健闘を期待しつつ、熱い一か月の幕開けを迎えたいと思います。