総務やさん最新号

「総務やさん」第746号

大阪市長の「結果に対し、責任を負う制度にすべきだ」は果たして・・・
                 ・・・・吉子 泰仁(よしこやすひと)

 この8月初め大阪市の市長が「来年度から“全国学力・学習状況調査”のテ
ストの結果を校長や教員の人事評価とボーナスの額に反映させる。結果に対し、
責任を負う制度にすべきだ。来年度も最下位だった場合、自身の来夏のボーナ
スを全額返上(寄付)する考えだ」という記者会見発表が波紋を広げています
ね。

※全国学力・学習状況調査とは、文部科学省が2007年から再開した、小学
6年生と中学3年生を対象とする、算数(数学)と国語と理科(2012年以
降3年に1回)の学力と学習状況の調査です。

 今回、大阪市が政令指定市20市中、平均正答率が2年連続で最下位だった
ことがその理由。平成30年度より大阪市独自の教員の人事評価制度を適用で
きるようになったこと、橋下徹前大阪市長の後継者であり、市長としてのPR
もあっての発言だったと思います。がしかし、林文部科学相が「把握できるの
は学力や教育活動の一側面。適切に検討を」と慎重な対応を求め会見、撤回を
求めた1万5000人分署名の提出、教育界から過去及び海外の事例をもとに
その危険性が指摘されるなど、評判がよくありません。

 皆さんは、最下位を抜け出すために提案したこの制度、教員を動機づけ生徒
の学力向上につながると思いますか? 

 モチベーションの仕組みを明らかにしたV.ブルーム、L.W.ポーター、
E.E.ローラーらの期待理論 (Expectancy theory)を前提に考えてみたい
と思います。

 仕事への意欲(動機の強さ)は、自分の努力によって目標がどの程度達成さ
れるか“目標達成の可能性”の主観的予測(結果の期待)と、達成される目標
にどの程度魅力を感じるか“目標の魅力”(結果の誘意性)との掛け算によっ
て決定されるという理論です。そして、目標の魅力を決定する要因には、外的
報酬と内的報酬があり、人は目標の達成への確信が強ければ強いほど、そして
達成すべき目標の魅力を感じていればいるほど動機づけされ、結果としての報
酬に満足すると次の動機づけにつながるというプロセスモデルです。

 “目標達成の可能性”を高めるには、通常、以下のような方法が考えられま
す。

1.直接的な支援として、目標達成するための戦略や戦術を示す
2.成功モデルを示す
3.目標達成にむけて努力する同僚や集団を形成する
4.本人に自信を持たせる
5.課題が生み出す不安を低減させる

 そして、“目標の魅力”を決定する要因となる、組織が人に与える報酬は、
以下のような分類ができます。

1.物質的報酬(外)
   金銭やモノの分配(賃金や賞与、昇進など)
2.評価的報酬(外)
   社会的に認められる、表彰される、自尊欲求が満たされる、人事考課
3.人的報酬(外/内)
   尊敬できる人やリーダー、仲間との協働など
4.自己実現的報酬(内)
   仕事の達成感、自己の能力や創造性の発揮など
5.理念的報酬(内)
   思想や価値観への共感、意義ある仕事や価値ある仕事をしているという
   自負など

 よって、組織が個々人を動機づける制度を設計するには、以下のステップが
重要と言われています。
(1)組織にいる人々がどのような報酬(インセンティブ)により大きな魅力
   を感じるのかを理解する
(2)報酬を人々の努力や業務遂行に結びつけるように設計する

 まず、“目標の魅力”因数で言うと「全国学力調査の最下位脱出」の目標と
物質的報酬としてのボーナスの変動には、教員が魅力を感じない(誘意性がな
い)のではないか。教員としてやりがいや自負に訴え、他の報酬が得られるよ
うにした方が、“目標の魅力”が高まったのではないか。この発言をしたこと
で、市長のリーダーとしての“人的報酬”も低下してしまった可能性もありま
すね。
 “目標達成の可能性”因数で言うと、今の小学校5年生と中学校2年生の教
員は、あと6カ月ぐらいの努力ができるかもしれないが、それ以外の教員はそ
もそも直接影響を及ぼす活動が難しい。学力が5年生と2年生で全員が急に伸
びるものでもなく、いきなり目標設定されてもその可能性が高まるとは思えな
い。逆に過去の例にあるように“学校ぐるみの不正行為”を誘発しかねない、
報酬制度として設計がされてるとは言い難い。大阪市教育振興基本計画にある
取り組みをさらに推進するための道筋や、文科省がこれまでの調査から分析し
ている結果や同じ政令指定市のモデルを参考に、就学援助率が高いなかで何に
注力していくのかを示して、教員の自信を持たせることの方がよっぽどよいと
思われるわけです。

 教員がこの全国学力・学習調査のためだけの対策講座をすることがあれば、
あるいは、自らの仕事を文科省の学力テストの向上に置いても問題ないと思う
教員がものすごく多ければ、最下位脱出もあるかもしれません。

 皆さんの組織の制度は機能していますか?一度、モチベーションマネジメン
トの観点から点検してみてはいかがでしょう。