「総務やさん」第1102号
●制度の”例外”運用はどうあるべき?
・・・・吉子 泰仁(よしこやすひと)
4月12日に開催された自由民主党大会で、現役の自衛官が制服を着用して歌唱したことが注目を集めています。政党の最高意思決定機関である党大会に、現役自衛官が制服姿で登壇したことについて、政治的中立性との関係をめぐりさまざまな意見が出ています。
登壇した自衛官は「自衛隊の歌姫」と呼ばれ、2019年の天皇陛下御即位奉祝行事「令和の集い」でも歌唱した経歴を持つなど、広く知られた存在です。政府は今回の登壇について「私人としての行為であり、違法ではない」と説明しています。一方で、各自衛隊の幕僚長が必要と認めた場合に着用する制服(通常演奏服)を身につけていたことや、自衛官として紹介された点から、私人として扱う説明には疑問があると指摘する声もあります。
AIに問題点を整理してもらうと以下のような返答がありました。
制服を着た現役自衛官が政党大会で歌唱することは、自衛隊法の政治的行為禁止、施行令の詳細規定、音楽隊の内部規定のいずれから見ても「違反の可能性が高い」と複数の報道や専門家が指摘している。
政府の「私人としての参加」という説明は、制服着用・組織的承認の必要性・政党広報での利用という事実と整合しないため、法的・制度的に問題視されている。法律・規則上の問題は、自衛隊法61条・施行令86条・87条に抵触する可能性、音楽隊の内部規定に反する可能性、制服着用が組織的関与を示唆し、「私人」説明が成立しない。
公務員倫理の問題は、自衛官の地位を利用した政治的影響力の行使、無償出演で政党側に利益供与となる可能性がある。
この議論で注目したいのは「私人だから問題ない」という”例外”ワードの影響力です。
今後、いろいろな団体から「歌姫に歌唱して欲しい」と依頼がきたらどうするのでしょうか? 制度の例外運用には「功」もあるでしょうが、多くの「罪」もあります。今回のような「私人だから問題ない」という”例外”判断は本当に正しかったのでしょうか?
皆さんも覚えがあると思いますが、組織運営上、”例外”が一度認められると、それが「前例」として機能するようになります。
人は前例に基づいて行動する傾向が強いものです。制度よりも前例が優先されるようになることで、制度が形骸化し組織の統制が崩れていきます。
今回のように「私人なら制服着用が許される」という”例外”が生まれると、次に類似の事案が発生した際に拒否することが難しくなります。例外が常態化し、制度の拘束力は急速に弱まることが予想されます。
次に、”例外”が認められると、今後の現場の判断基準が曖昧になります。
一度”例外”の前例ができると、制度ではなく、「誰」の意向なのか、「誰なら」例外を承認するかといった「上層部の意向」で判断、行動するようになります。
現場は「何が正しいか」ではなく「誰なら大丈夫か」を確認するようになり、組織文化に”空気を読んで動く”傾向を生み出し、人の自律性を奪い、判断の質を低下させてしまうようになるでしょう。
さらに、例外運用を内部で恣意的に行えば、組織は「自己審査構造」に陥ります。妥当でなかった場合は責任を問うことが必要になるわけですが、自分の行為を自分で審査する構造になれば、独善で悪意を持って組織運営をするリーダーが就いた場合、不正の温床となってしまいます。
制度が恣意的に扱われる組織は、透明性と公平性を欠き、外部からの監視や統制が機能しにくくなります。その結果、自らの問題行為を正当化したり、偽装したりして、対外的に組織の信頼性を低下させてしまうでしょう。世の常とはいえ、皆さんもこのような例を経験したことは多いはずです。
では、制度の例外運用はどのように扱うべきなのでしょうか。
重要なのは、外部審査機能を導入し、内部だけで完結しない仕組みを整えることです。
例えば、
・例外を認める場合は、理由を文書化し外部に説明可能な形にする
・例外を認める基準を明確にし、前例主義に陥らないようにする
など、説明責任を明確にして透明性を確保して、後から判断基準を確認できるようにしておく体制をつくることは最低限必要でしょう。
例外は組織に”柔軟性”を与える一方で、規律と信頼性を損なう危険を孕みます。組織が本来あるべき正しい判断をするには、例外を安易には認めず、制度を守る姿勢を貫くことが必要です。それこそが組織の健全性を守ることになるのでしょう。
今回の不透明な”例外”運用に巻き込まれた歌姫のキャリアが閉ざされてしまわないことを願うばかりです。
【参考】
1.文春オンライン「自衛隊法違反となる可能性が高い」自民党大会熱唱で物議、陸上自衛隊の歌姫・鶫真衣を芸能プロ会長が擁護
「『彼女が悪い』となってしまうのは可哀想」
https://bunshun.jp/articles/-/88080
2.Japan In-depth[ジャパン・インデプス] 自衛隊は自民党の「私兵」か?党大会での国歌歌唱が揺るがす文民統制の根幹
