「総務やさん」第1098号
●3.11いわき市の赤飯廃棄問題~組織に必要なことを考える~
・・・・吉子 泰仁(よしこやすひと)
“赤飯廃棄問題”について、ニュースでご覧になった方も多いのではないでしょうか。“赤飯廃棄問題”とは、「卒業を祝う給食として用意された赤飯が1本の電話をきっかけに廃棄された」というものです。具体的な経緯は以下になります。
卒業祝いとして赤飯を提供する献立は、1か月分の献立として保護者へ事前に通知していた。
3月11日早朝、約2,100食の赤飯が調理されて5つの中学校へ配送準備が完了しているなかで、保護者を名乗る人物から学校へ「震災の日に赤飯はどうなのか」との電話連絡があった。その電話の主は“廃棄”を求めているわけではない、来年以降は気をつけてほしいと述べただけで教育委員会も「圧力的ではなかった」と認めている。
しかし、教育長が午前11時過ぎに“提供中止および廃棄”を即決し、防災倉庫の非常用パンを急遽提供した。
そして、様々な批判を受けた決定権者の教育長が「(甚大な被害があった)沿岸部の学校に配食するものとして非常に違和感を感じ、ふさわしくないと考え決定した」というコメントを述べた。
このケースをAIに投げかけて、問題点を整理してもらったところ、
1. 事実と解釈の混同による過剰反応
単一の声を過大評価し、組織としての判断基準が機能しなかった
2. 意思決定プロセスの欠如(チェック機能の不在)
個人の直感に依存した“独断”に近い形になっている
3. 価値判断の不明確さ
「震災の日に赤飯は不適切」という“価値の基準”が明確でない
4. 提供と廃棄のリスク評価の欠如
判断に必要な“リスク・ベネフィット分析”が行われていない
5. 説明責任の不備
意思決定の根拠が不明確で、信頼を損なうものである
とのことでした。
リーダーとしての意思決定の在り様と、教育委員会の意思決定の仕組みを改善する必要性がありそうです。今回はAIの指摘を踏まえつつ確認していきたいと思います。
まず教育長自身の「震災の日に赤飯はふさわしくない」という違和感自体は、それ自体を否定されるものではないでしょう。
ただし、123にあるように、リーダー自身の”思考の癖”に注意しておかないと誤った判断に陥る可能性があります。
人に備わる心理的メカニズムは複雑です。今回でいえば、”1人の意見”を大多数がそうだと誤認する代表性ヒューリスティックにより「世間も電話の主と同じく震災の日に赤飯は不適切だと思うだろう」と思いこみ、次に論理ではなくその時の好悪感情を判断基準にする感情ヒューリスティックにより教育長が「ふさわしくない(よくない)」と感じ、そして最後は“批判されるリスク”を避けるため「“震災の日に赤飯を提供した”と多くの人に非難される前に、給食を止めよう」と判断しています。過剰なリスク損失回避によって、より大きな損失を生む判断をしてしまった、と言えるかもしれません。
時間的な制約もあったかもしれませんが、結果的に4の提供と廃棄のリスク評価を行うことなく判断してしまっている印象です。
教育長が中止と考えている状況で、委員会メンバーがそれこそ違和感を持って意見具申することができればよいのですが、同調圧力を打破するのはなかなか難
しいのが世の常です。
属人的に“誰か”に期待するのではなく「集団浅慮」を防ぐために組織としてどうすればよいのでしょうか?
その答えは、「悪魔の代弁人(デビルズ・アドボケート)」を置くことです。
悪魔の代弁人とは、その個人がどう考えているかに関係なく、あくまで「役割」としてその意思決定の合理性の欠如や論理の穴を見つけるために、徹底的に反論したり、第3の選択肢がないのかを強制的に検討したりするものです。カトリック教会の審議において「あえて批判をする」ためにこの名前の役職を設置したことに由来しています。
つまり、今回の場合だと悪魔の代弁人は「赤飯は本当にお祝いだけのご飯なのか?」と批判してみるわけです。
実はAIに聞いてみたところ「赤飯はお祝いの席だけでなく、厄払いや供養といった場面でも食べられるものです」という返答とともに「古来、赤は、邪気を払う、災いを遠ざける、命を守るという意味を持つ色で、赤飯は子どもが無事に育つように、災いが起きないようにという祈りを込めて食べられてきました。地域によっては葬儀後の「忌明け」に赤飯を食べる、災害後の節目に赤飯を炊く、厄年の終わりに赤飯を食べるといった風習があります。」などいろいろ提示してくれました。
なんと、AIに聞くことで「震災の日に赤飯は不適切」という論理で提供の中止をせず、納得感のある説明もできた可能性もありますね
個人的には、教育現場であればこそ「祝い」と「追悼」を対立させず、両方を丁寧に扱って、卒業する子どもたちを祝ってあげてほしかったと思います。
皆さんはどう考えますか?
【参考】
1.朝日新聞「卒業祝いの給食に赤飯、震災15年と重なり2100食分廃棄 福島」
https://www.asahi.com/articles/ASV3F2FX3V3FUGTB001M.html
2.数理の窓「悪魔の代弁人」のすすめ 野村総合研究所
